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はじめての会社泊 [2011]

金曜日の午後こと。

職場の9階のフロアは普段からよく揺れる。
この時も揺れ始めから地震を察知してはいたが
揺れが尋常ではないことに気がついて
皆ヘルメットを手に急いで机の下にもぐった。

揺れが強くなるにつれ、物がきしむ音が
大きく激しくなってゆく。

机の下にいても どこかに掴まらないと
机に頭をぶつけそうだった。
それはそれは長い時間に感じたのだが
いったい何分ぐらいだったのか。

少し揺れが収まったところで机の下から這いだすと
強烈なコーヒーの香りが。。
うっ。。なんと机の上のタンブラーが倒れて
近くにあった書類が見事にコーヒー色だ。
急いで机を拭き、倒れそうなものを固定。

それにしても、ものすごくドキドキして
緊張で呼吸も浅くなっている。

しばらくして館内放送が流れた。
余震が続くのでヘルメットを着用し安全な場所で待機、
落ち着いて行動すること、外にでないこと、などなど。

保安部署からの安否確認メールも各自の携帯やPCに届く。
無事なので”あ”と入力して返信。

少し落ち着いたところで部屋を見回すと
観葉植物などが床に散らばり、
雑誌がキャビネットから飛びだし散乱している。

窓ガラスの隅の方が割れ、隣の診療所との薄い壁に
妙な穴が開いていた。

片付けをしていると、再び大きく揺れるので
その度に机の下に非難する。
こうなるともう仕事どころではなかった。

少し揺れも落ち着いたところで、皆自宅へ連絡を始める。
携帯はやはりつながらない。
固定電話も”少ししてからおかけ直しください”の案内ばかり。

母のことが気がかりで諦めずに電話をしていたら
幸いなことに電話がつながった。

電話には母が出た。父が今帰ってきたところだという。
父はちょっと出かけた先で地震に遭い、慌てて帰宅したところだった。
家の中はほとんど被害もなく、飾っていた廊下のこけしたちが
ケースから飛び出して氾濫している程度とのこと。
母は地震に遭ったこともわかっていないのか
やけに落ち着いているという。ホッ=3

同僚の一人などは、家でお母様が一人だったらしく
家の中がメチャクチャだと電話口でパニック状態のようだ。
一生懸命電話でなだめつつ、電話を切った同僚も
今にも泣きそうな顔をしていた。

終業時間前に、館内放送が流れた。
今日は帰宅せず会社にとどまり、ビルの外に出ないこと。
事情がある人は上司に届け出の上ヘルメットを着用、
配布されている防災グッズを持ち帰宅するように。 
上司は帰宅者を関係部署に連絡すること、などなど。。

部署の半分の人は徒歩圏内らしい。
指示通り上長に申し出て重装備で帰宅し、
私を含め4名が居残りとなった。
廊下にでると、同じフロアにはたくさんの人がいるようす。

仕事をする気にもならないので、書類等を片付け
ネットで地震情報を見たり、携帯のTVで情報収集に努める。

どうやら電車は動きそうにない。
コンビニに買い物に行きたいけど、フロアは9階。
エレベーターは停止しているから体力温存のために諦めた。
きっと後で食糧や水を取りに地下2階まで行かねばだし。

9階のオフィスは揺れがなかなか収まらず
その後もなんとなくだが常に揺れていた。
次第に小さい揺れでは動じなくなってしまったが
だんだん乗り物酔いのような感じを覚えた。


あれは何時頃だったか、放送が流れ食糧と水の配布が始まった。
元気な私ともう1人の女子の二人でB2階へ降りる。
もちろんヘルメット着用のままだ。

今夜の夕飯は、非常食の”きなこもち”か”いそべもち”。
水は1人1.5ℓのペットボトル1本とのこと。

フロアごとの配布だったため、混雑もなくスムーズに受け取り
また9階まで階段を上った。

私は週一程度だが運動をしているし、もう1人の女子などは山ガール。
よって9階までなら多少息が荒くなる程度だった。

その山ガールは、同じ部署の看護師さんだから
こういう時に一緒にいてくれるととても心強い。

会社泊が決定した後、覚悟を決めてお菓子などを食べたため
既に空腹感はなかったのだが、こういうときは食べておかねばだ。

さっそくドライのもちをトレイに並べひたひたの水に浸し
待つこと3分間。

もっちりしてきたところで、乾いた皿に移し
きなこや醤油の粉を振りかけ、いそべもちには
既にフニャフニャのノリを巻いて出来上がりだ。

Image076~07.jpg

期待せずに食べてみると、きなこもちはまぁなんとか、、
しかし、、いそべもちは醤油やノリの味がなんとも言い難い。。
我がままを言っている場合じゃないのだが、
いそべもちは具合が悪くなりそうで、少し残してしまった。 
思わずタンブラーに入ったお茶をごくごく飲んでしまった程デス。

こうなるとお腹は空いていないのに、
なぜか無性におむすびが食べたくなるというもの。

近くのコンビニに買い出しに行った人の話では
既にパンやお弁当、おにぎりなんかは完売。
お菓子なら残っている、とのこと。ちぇっ。。


諦めてまたTVやネットで情報収集をする。
まだ家族の1人と連絡が取れない先輩の電話がようやくつながり
無事を確認して皆もホッとした。

しかし、TVで流れる死者、行方不明者数は増える一方だ。
暗闇に映しだされる火災の様子や、車や船や家を巻き込みつつ
町をのみこんで行く映像など、恐ろしい映像が次々と報道され
先々の不安で疲労が募ってゆく。

ずっと椅子に座っているので腰も痛くなり、足も浮腫む。
時々ゴミを捨てにいったりタンブラーを洗ったり
トイレに行ったりして歩くようにした。



そろそろ眠る時間となり、上長が皆に問う。
部屋割、どうする?

部屋割。。なんだか合宿みたいだ。。
言った本人も笑っている。

結局、女子3人は、診療所のベッドと面談室の床で眠り、
上長だけが部屋に残ることになった。
といっても2つの部屋はつながっていて
何かあれば直ぐに飛んで行ける。

病気治療中の先輩がベッドに横になり、
元気な私と山ガールは保存箱の予備と
診療所の毛布やブランケットやシーツも借りて
なんとなく快適な寝床を作ることができた。

それにしても、保存箱の段ボールは役に立った。
1人4枚使い、ちょうどいい長さにしてシーツなどで包み
毛布を縦二つに折ってその間に挟まって眠ることにした。
さらに上からブランケットや上着をかける。
枕は椅子に置いているクッションで代用。

荷物やヘルメット、靴、携帯などを回りに置いて
どんなものかと毛布の間に入ってみると、これが実に暖かく
途中、首に巻いたマフラーを少し緩める程だった。

疲れていてすぐに眠りに落ちたが、また直ぐに
救急車や車を誘導するホイッスルの音、
警戒警報などで起こされたが、少しずつでも睡眠を取り
身体を休めた。


4時半ごろだったか、警戒警報が続けて鳴り
眠い目をこすりつつ、靴を履きヘルメットを着用し
安全な場所で待機したが、揺れはあまり感じなかった。
ついでにトイレに行く。

揺れていないことを確認し
また少し寝床で横になった。

朝日がブラインド越しに強烈に差し込んできた。
時刻は6時半くらい。のそのそと皆起き上がり
各々飲み物などを用意して飲んだ。
粉末のカボチャのスープがとても美味しく感じられた。

ニュースをチェックし、交通情報を調べると
時間が経つにつれ、おおよその電車が動き出すようだった。

既に駅で待機している人もいるわけで、この界隈のオフィスも
ほとんどが会社待機と考えると、JRに殺到することは目に見えていた。
少し時間をずらし、私鉄を乗り継いで帰ることにした。


その頃、また朝食の非常食が配られるというので
帰り支度を整えて社食のあるB2階に下りた。

朝食は温かい五目御飯。お味はやはりレトルト風ではあるが
この先もまた何があるかわからないので
今度は残さずしっかり食べた。


8時ごろだったか、久々に屋外に出ると朝日がまぶしかった。
駅へ向かう途中、東京タワーが見えるのだが
やはり肉眼でも曲がりが確認できる。

しかしなんだか何もなかったような朝だ。
普段の土曜日の風景と変わらない。
昨日の出来事は何だったのか、、という妙な感覚に見舞われた。
被災地とあまりにも違う風景だからか。

幸い地下鉄はまだ空いていて座ることができた。
途中で東急に乗り換えると、こちらは少しは混んでいて
学校に泊まったらしき学生服の少年たちがスナック臭を漂わせていた。

横浜からの私鉄の下りはいつもの土曜日ほどに空いている。
2時間程で家にもどることができラッキーだった。


非常事態には会社に泊まるのだと頭ではわかっていたが
会社に泊まることをあまり考えてみたことがなかった。
実際に泊まってみて気がついたことがいくつかある。

しかし、今回は残った人も少なく、ある程度物資にも余裕があったが
首都圏型の地震がくれば、こうはいかないだろうな。

私の場合、今後の家族の状況を考えるに
職場は歩いて帰れる距離が望ましいだろうが、
それが無理であれば、歩く必要が生じた場合を想定して、
色々な準備が必要だと思った。

少なくとも会社にスニーカーを置いておかなくては。。
簡易なリュックもあるといいかも。
歩く経路もきちんと把握しておかねばだ。
しかし多摩川が渡れなかったらどうしよう。。

食糧も日頃から少しロッカーに忍ばせておこうかな。
またいそべまきが出たら確実に具合が悪くなりそうだし。

会社にある携帯の充電器がとても役に立った。
TVを見るときは充電器につなげながら見ていたのだが
しかし油断せず常に残りの電池を確認すべし。

あとは何だったかな。
もっと色々と思いついたはずだが
後でまたしっかり思い出すとしよう。

今回の会社泊は不慣れで大変だったが
とにかく経験しておいてよかった、と皆くちぐちに語った。

あぁ。そしてまた明日は仕事か。
今日はストレス発散のために少し身体を動かした。
自転車で通過したいつもの川沿いの風景はのどかそのもの。
さて被災地の方々のために何をしようか。。
取りあえずもう電気をもう消さなくだ。

最後になってしまったが、、
亡くなられた方々には心からお悔やみ申し上げるとともに
一日も早い復旧を祈りします。

そして温かい寝床に眠ることの幸せを自覚しつつ
眠ることにしよう。


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コメント 9

ゴーパ1号

幸い、自宅にいましたので
母親が一人では無かったことが
何より救われました。
by ゴーパ1号 (2011-03-14 06:58) 

アッキー

同じく会社泊でした
家はトースターがすっとんだり、食器棚の食器が散乱して
割れていたりで、少しだけびっくりしました
今朝は計画停電で、1時間歩いてJRに乗ってきましたが
いかがしましたか?
by アッキー (2011-03-14 09:36) 

Silvermac

帰宅難民が現実のものとなりましたね。
by Silvermac (2011-03-14 10:36) 

はてみ

私も会社泊でした。
もし家族の無事が確認できないままだったら、
電車で行けるところまで行って、
夜中の暗い田んぼや畑の中を歩くことになったかもしれない。
帰ってきて、自分の寝床で眠れる幸せをかみしめました。
by はてみ (2011-03-15 17:47) 

sakamono

私は仕事が忙しい時などに、何度も会社へ泊まったコトがありますが、
こういう会社泊はいやですね。私は運良く動き始めた私鉄に乗って
新宿駅から歩いて帰りました。
by sakamono (2011-03-16 22:39) 

po-net

>ゴーパ1号さん
不安な日々が続きますね。ゴさんお元気ですか?
今日は家に着く頃には停電で街は真っ暗だろうと心細かったですが
月明かりでかなり明るい夜でした。信号機が作動してないから
道を横断するのが一番こわかったです。

>アッキーさん
東京の方がやはり揺れがひどかったようでお片付けが大変でしょう。。
14日は電車を乗り継ぎ乗り継ぎで、1時間ほど遅刻しました。
1時間お散歩ならいいけれど、通勤となるとうんざりだなぁ。。
本当にお疲れ様でございます。。今日も帰りの電車がまたスゴカッタ。。

>Silvermacさん
今回は電車が直ぐに動いて翌朝帰宅できましたが、東海や首都圏を
直撃したら悲惨なことになりそうです。。

>はてみさん
お元気ですか?私も家族が無事だったので会社に泊まれたものの
歩いて帰るとなると気が遠くなるなぁ。着く頃には夜が明けちゃうかも。
今日は帰り道は停電だったけど、畑の道は月明かりで結構遠くまで
見えるものだなぁと感心しながら歩いてました。

>sakamonoさん
無事帰宅できて良かったですね。あの日、人が道路をぞろぞろ歩く
様子をTVでみてビックリしました。友達はタクシー8時間待った
そうです。。8時間って!もう信じられないことばかりデス。。
by po-net (2011-03-17 21:46) 

春分

早々にこんなのを書いておられたのですね。気づかなかった。あ、夜か。
今日に至るまで早く寝て、良く食べてるものですから。でも眠りは浅いね。
原発のこともあってなかなか治まらないですね。東北とは比べられないが。
それぞれの3月11日と12日があって、とりあえず19日か。
by 春分 (2011-03-19 17:39) 

asahama

もう一週間が過ぎましたが、なんだか時の流れが変だったように思います。徐々に通常に戻していきたいな、と思ってます。

それにしても当日は、首都圏のほとんどの人が会社泊?鉄道が全く動かないなんてことも今までなかったろうし。
おつかれさまでした。

安否確認メール、
うちの職場でも同じものを使ってるかも。
「あ」と返答するのも同じ(笑)。
by asahama (2011-03-20 09:50) 

po-net

>春分さん
こんなときはよく寝てよく食べておかねばですね。
確かに夜中によく目が覚めたり嫌な汗をかいたりします。
しばらく通勤も大変だし、ストレス発散を心がけねば。。

>asahamaさん
何しろまず赤ちゃんを守らねばだし色々と大変でしょうか。
お母さんの不安は子供に即伝わってしまうし。。
ここはどーんと構えて赤ちゃんと笑顔で過ごせるといいですが。。
お身体に気を付けて~。

by po-net (2011-03-20 14:34) 

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